在宅ワークの部屋づくりでは、机の大きさ、椅子、照明、ネット環境の話はよく出ます。でも、「香り」まで話が及ぶことはほとんどないのではないでしょうか。
私は自宅の仕事環境をいろいろ試してきましたが、最後にたどり着いたのが香りでした。通勤のない家では、仕事の始まりと終わりを切り替えるきっかけがありません。香りは、そのきっかけになります。しかも、棚1段とコンセント1口を図面に入れておくだけで準備できます。この記事では、香りを在宅ワークの空間設計の要素として扱う考え方をご紹介します。
製品の公式サイト:https://www.at-aroma.com/product/diffuser/
公式サイト:https://www.kimuras.jp
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通勤がなくなると、「切り替え」もなくなる
会社に通っていたころは、玄関を出て電車に乗り、職場に着くまでの時間が、気持ちを切り替える役目を果たしていました。在宅ワークでは、この時間がなくなります。寝室から数歩で机に着き、仕事が終わっても同じ家の中にいます。
ここで役に立つのが香りです。香りは記憶と結びつきやすい感覚だと言われています。私も、寝室と仕事部屋で香りを分けてみて、仕事の香りがすると自然に「仕事の時間だ」という気持ちになることを実感しました。
私は以前エステサロンを経営していたことがあり、エッセンシャルオイルの特徴を見ながら店の空間づくりに使っていました。お店では当たり前だったこの手法を、自宅にも持ち込んでみたというのが始まりです。
照明が目から、音楽が耳から切り替えをつくるのと同じように、香りは鼻から切り替えをつくります。しかも、一度仕組みにしてしまえば、毎日意識しなくても働き続けてくれます。
自宅で試して分かったこと

試した香りは「FOR STUDY & WORK」と「FOR SLEEP」の2種類
私が試したのは、@aroma(アットアロマ)の「piezo diffuser solo(ピエゾディフューザー ソロ)」です。香りは仕事向けの「FOR STUDY & WORK」と、睡眠向けの「FOR SLEEP」の2種類を使いました。
驚いたのは、香りの広がる速さです。我が家は50平方メートルほどのほぼ1LDKですが、スイッチを入れると数分で全部の部屋に香りが届きました。メーカーの案内では、最大で約40畳の空間に対応するとされています。音はほとんど聞こえないくらい小さく、強さは3段階で調節できます。
ここから分かるのは、「香りは思ったよりも部屋を越えて広がる」ということです。仕事部屋だけを香らせるつもりでも、扉を開けていれば家全体に届きます。これは、設計の話につながります。個室の書斎と、リビングの一角のワークスペースでは、香りの考え方がまったく違ってくるからです。
方式を知っておくと、部屋に合わせて選べる

寝室、仕事机、車など、場所に合わせて選べるディフューザー(メーカー写真)
アロマディフューザーの香りの広げ方は、大きく3つあります。
- 噴霧式(ネブライザー):空気の圧力でオイルを細かくして広げる。香りが純粋で、広い範囲に使える
- 気化式:布や石、瓶などからオイルを自然に広げる。手軽で、電源がいらないものもある
- 超音波式(ピエゾ式):振動でオイルを細かくして広げる。音がとても静か
寝室のように音が気になる部屋には、気化式やピエゾ式が向いています。電源を取れない玄関やトイレには、スティックタイプの気化式が使えます。
精密機器の多い仕事部屋では、オイルの付き方にも注意が必要です。私の経験では、噴霧式は周りにオイルが付くことがありましたが、ピエゾ式ではそうしたことがありませんでした。パソコンのそばや、塗装した天板、無垢の棚に置くなら、気にしておきたい点です。
香りの「定位置」を図面に入れておく

USB給電なら、机の上にも置ける(メーカー写真)
香りは後からでも足せます。でも、後から足すと、延長コードが床を這い、棚の隅に追いやられ、そのうち使わなくなることも少なくありません。ディフューザーが「出しっぱなしでも絵になる場所」を先に用意しておくと、毎日の習慣として続きます。
設計の段階で考えておきたいのは、次のようなことです。
- 置き場:造作棚やカウンターの一角に、幅と奥行きが20cmほどの場所をとる
- 電源:置き場のすぐ近くにコンセントかUSBのコンセントを1口用意する。ケーブルが見えない配線にできればなお良い
- 高さ:顔より少し低い棚の高さにしておくと、オイルの補充と掃除がしやすい
- オイルの収納:ボトルは直射日光を避けて、すぐ手の届く場所へ

ソロの給電はUSB。背面に差すL字のケーブルが付いていた
私が使ったソロは、直径65mm、高さ190mmの円筒形でした。特別な工事はいらず、これだけの場所があれば成り立ちます。
換気の流れを、香りの流れとして読む

オイルの残りが見えるボディ。補充しやすい場所に置くことも大切
もう一つ、工務店の皆さんならではの視点が換気です。今の住宅には24時間換気があるので、室内の空気は給気口から排気口へ向かって流れています。香りも、この空気の流れに乗って動きます。
図面で空気の流れを確かめると、香りの置き場所も見えてきます。
- 排気口のすぐ近くに置くと、香りが部屋に広がる前に外へ出ていってしまう
- 香りを個室にとどめたいなら扉を閉められるようにし、ワークスペースがリビングの一角にあるなら、家全体に広がることを前提に香りを選ぶ
- エアコンの風が直接当たる場所は避ける
断熱・気密の性能が高く、計画換気がきちんと働いている家ほど、空気の流れが読みやすくなります。香りの提案は、換気の計画を施主様に分かりやすく説明するきっかけにもなります。
提案の前に確かめておきたいこと
香りは好みが分かれます。提案するときには、次のことを確かめておくと安心です。
- 家族の中に香りが苦手な人や、体調に影響が出やすい人はいないか
- 小さなお子様やペットのいる家では、手の届かない場所に置けるか。特に猫などのペットがいる家では、精油が使えるかを獣医師やメーカーに確かめてもらう
- オイルは火気の近くに置かない。ピエゾ式の専用オイルにはエタノールで薄めたものもある
- 機器専用のオイルが必要かどうか。方式によって、使えるオイルが異なる
香りの強さは、いちばん弱い設定から始めるのがおすすめです。自分の鼻はすぐに慣れてしまうので、強くしたくなりますが、家族や来客には強すぎることがあります。
在宅ワークの相談を受けたときに
在宅ワークの部屋をつくるとき、香りについて確認しておきたいことをまとめます。
- 仕事の香りと、くつろぐ香りを分けたいか聞いてみる
- 置き場を棚やカウンターに1か所つくり、すぐそばに電源を用意する
- 給気口・排気口とエアコンの位置を見て、置き場所を決める
- 個室か、リビングの一角かで、香りの広がり方を説明する
- 香りが苦手な家族やペットの有無を確かめる
ここは、工務店の皆さんにぜひ押さえておいていただきたいポイントです。在宅ワークの打ち合わせで「香りはどうしますか?」と聞かれた施主様は、ほとんどいないはずです。「通勤がなくなると、仕事の切り替えが難しくなります。香りを仕組みにしておくと楽になりますよ」と一言添えられると、施主様にとっては初めて聞く提案になり、他社との差別化につながります。
費用がほとんどかからないのも、提案しやすい点です。必要なのは、棚の一角とコンセント1口だけ。ディフューザーそのものは施主様が好きなものを選べばよいので、「ここを香りの場所にしておきましょう」と図面に書き込むだけで、暮らしの提案に変わります。モデルハウスの書斎に香りを1種類決めて置いておくと、「この家の香り」として記憶にも残りやすくなります。
なお、私が使ったソロは、2018年に発売されたモデルです。今も@aromaの製品ページには載っていますが、公式オンラインストアでは本体が見当たらず、交換用の部品とオイルが販売されていました(2026年10月時点)。米国の公式ストアでも売り切れになっていて、今から新品を手に入れるのは難しいかもしれません。これから選ぶなら、コードレスでボトルから直接香りを広げる「one⁺(ワンプラス)」(17,600円)など、ほかの方式が候補になります。この記事で大切なのは特定の製品よりも、香りの場所を先につくる考え方です。
香りは、最後に足すものではない
香りというと、住み始めてから好みで足すものだと思われがちです。でも、在宅ワークの時代には、香りは仕事と暮らしの境目をつくる設備のひとつになります。
朝は仕事の香りで机に向かい、夕方に香りを止めて、夜は寝室の香りで一日を終える。そんな流れがあるだけで、家で働く人の毎日は確かに変わります。
「どこで働くか」は図面で決まりますが、「どんな空気の中で働くか」は、提案の深さで決まります。目に見えないものまで一緒に考えられることが、在宅ワークの時代に選ばれる工務店の強みになると、私は考えています。
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