「つくるプロセス=生産工程」の具体 ~施工②・メンテナンス~

2025/06/0511:1143人が見ました

こんにちは。

ひと・住まい研究所の辻です。

随分とご無沙汰してしまいました。連載を中断したままなのが気になっていたので、前回の投稿からかなりの時間が経ちましたが、今回みなさんに告知したい案件もあり、ここがよいタイミングだと意を決して()、連載の締めとなる記事をアップすることにしました。少々ボリュームがありますがご容赦ください。

改めて「つくるプロセス」の全体フロー事例を掲載します。

今回は、「8.施工」と「9.入居/家守り・暮らし守り」について、具体的な事例やポイントを中心にまとめてみたいと思います。

 

8.施工

「ものづくり」を生業としている工務店の真骨頂とも言うべき工程です。

しかし施主にとっては最も不安材料の多い工程であり、ゆえに工務店へ向けられる視点は神経質なものになりがちだと思います。良いものをつくるためへの取組みはもちろんのこと、施主のこうした心理を理解した上で、いかに「安心感を意識的に演出できるか」が問われることになります。実際この工程の良し悪しで、顧客満足度と住まいの商品価値、ひいては工務店の評価が決まることになります。

まさに生産工程の核となるこの「施工工程」ですが、その心得とも言うべき重要ポイントを、まとめておきたいと思います。

<施工の心得>

① 建築現場は「ガラス張りの製造工場」と認識すべし

家づくりの製造工場である「建築現場」は、発注者(施主)がいつでも見学でき、地域にもある意味開かれたもの。よって建築現場のあり方はもちろんのこと、作業に従事するすべての人の仕事ぶりや施主や地域への対応にも神経を使う必要がある。また施工ミスを発生させない最大限の配慮とその仕組みも求められる。常に人に見られているという意識を強く持つことが、1ランク上の「施工」現場の実現に繋がる。

② 組織的なチェック体制が施工管理の基本となる

一般的な施工管理における5つの項目(品質・安全衛生・原価・工程・環境)の内、「品質・安全衛生・環境」の3項目については、「社内検査」という形で複数のスタッフによる現場チェックが不可欠。施工工程におけるチェック項目は非常に多く、また専門的な知識も必要となるため、工事担当者に任せきりでは会社として目指す品質を一定以上確保し続けることは難しい。工程ごとに適切なタイミングで社内検査を定め、それを軸として施工全体の流れをつくっていくことが重要。

③ 顧客満足度を能動的に高める意識を持つ

工事担当者の顧客満足度を高めようとする意識は一般的には低く、会社としてもそれを強く求めていない傾向にある。私の経験上多くの施主は、工事担当者を始めとした施工に携わる人達に、とかく遠慮がちになる。そのため施主からの連絡待ちではなく、工事担当者自ら積極的にコミュニケーションを図っていくことがとても重要になる。そうした行動は施主へ安心感を与えるだけではなく、トラブルを未然に防ぐ術にもなり得る。具体的には定期的な進捗報告(最低でも1 回/1 週間)をベースとし、社内検査の報告書などの送付・説明などをデジタルツールも活用しながら、定期的にコミュニケーションを図ることを社内ルール化しておきたい。

 

ここからは施工工程において、組織的に取組んでおくべき社内検査やイベントを1つの参考事例としてまとめておきます。

 

基礎工事

<社内検査>

①遣り方検査

建物の配置、形状、GL、基礎形状など建築計画の根本となる部分をチェックする

②配筋検査

保険会社(住宅瑕疵担保責任保険)による検査に任せきりにするのではなく、品質はもちろんのこと、現場の安全衛生、環境管理なども加えた、より細やかな視点で自主的にチェックする

③コンクリート検査

コンクリートの打設状況に加えて、その品質もしっかりとチェックする

<イベント>

・木工事打合せ会

大工と施工全般について事務所で実施する事前打合せ。ミーティング内容は、物件や担当者によるばらつきを無くすために定型化することが望ましい

 

建て方~上棟~中間時

<社内検査>

①仮設材設置検査

社内承認された仮設計画図通りに設置されているかをチェックする

②中間検査

保険会社(住宅瑕疵担保責任保険)による検査に任せきりにするのではなく、品質はもちろんのこと、現場の安全衛生、環境管理なども加えた、より細やかな視点で自主的にチェックする

③造作材料検査

1本ずつ品質の異なる無垢材を使用する場合は、搬入時に特に実施したい検査項目

④放水検査

高圧洗浄機を使用して、外部の各部位に直接水を噴射して雨漏りのリスクを検証する

<イベント>

上棟式

記憶に残る独自の演出を施すことで顧客満足度の向上を目指したい

仕上げ工事打合せ会

後工程で関連する協力業者及び大工と事務所にて実施する事前打合せ。ミーティング内容は、物件や担当者によるばらつきを無くすために定型化した方が良い

施主との現場打合せ

「施主参加型の家づくり」の視点を意識して、必要となる現場打合せをイベントとしてあらかじめ設定しておく。例えば、造園工事に伴う庭木買い付けを1つのイベントとして取入れても面白い

 

内外部工事~仕上工事~完成

<社内検査>

①外壁検査

仮設材撤去前の外壁廻りの総チェックを行う

②木工事完了検査

木工事完了に伴う総チェックを行う

③担当者完了検査

建物完成時に行う工事担当者による自主検査

④社内完了検査

社員総出によるチェックが望ましい。課題や問題点、その改善策を社内共有することがととても重要

⑤施主完了検査

社内完了検査で実施した検査項目を施主に事前に伝えておくと、チェックすべき項目が明らかになるとともに、細かな視点でチェックしてもらったという安心感にもつながる

 

竣工

<イベント>

引渡し

施主の感動を誘うイベントとして演出したい。また「生産工程」全体の評価を共有するために「家づくりアンケート」を必ず実施したい

メンテナンス引継ぎ会

工事担当者からメンテナンス担当者へ、必要事項を漏れなく伝達するための社内会議を実施する

 

 

9.入居/家守り・暮らし守り

思い描いた暮らしが実現できているか、その「結果」を見届け、住まいと暮らしを「見守っていく工程」という位置付けです。

以前の記事でも述べましたが、家づくりにおける「生産」とは建物をカタチづくるだけでなく、その後の施主家族の「暮らし」もカタチづくるのだという「前向きな意識」がとても大切だと私は思っています。

なので、主にハード面を対象とした「家守り」と、ソフト面を対象とした「暮らし守り」という2つの視点で考えることが重要で、この2つの視点がその後の「生産工程」の改善・熟成に大きく関わるものであるとともに、他社との「決定的な違い(差別化)」を生み出すものにもなります。

■家守り

・建物を⾧きに渡って維持管理していくという、いわゆるメンテナンス業務

・適正な維持管理の独自の仕組みが不可欠

・「点検の実施 →不具合箇所の対応検討 →施主への結果報告(点検及び対応方法) →対応の実施」が1 サイクル

・「竣工~10 年・10 年~20 年・20 年~30 年・30 年以降」の最低でも4 つの時間軸ごとに分けて、家守り全体の仕組みをつくる

・家守りを有償化することを視野に入れて仕組みを構築していきたいところ

■暮らし守り

・より良い暮らしへの情報提供やアドバイスなどを行う、サポート業務を指す

・日常の暮らしに影響が大きい「温熱や省エネ(省光熱費)」を暮らしサポートの核としたいところ

・上記の2つは、実測やヒアリングすることで「定量的な結果」を得ることが可能であるため、それを基にしたプロならではの「暮らし方アドバイス」ができると大きな強みとなるし、改善へ向けた課題も明確に見えてくる

・住まい手同士が集まり、お互いに情報交換し合える場を定期的に設けられるとよい。例えば「豊かに暮らす」ことをテーマとし、セミナーなどのイベントを開催して住まい手のコミュニティ形成を促すのもあり

・入居後定期的(1 年ごと)に「住み心地アンケート」を実施して、住まい手の「今」のニーズを把握する

加えてぜひ「住まい手のランクアップ」への取組みをお薦めしたいです。具体的には、まず竣工時に「家づくりアンケート」の内容などを参考にして、施主の「自社への満足度」を評価軸としたランク付けを行います。そして入居後の「住み心地アンケート」の内容を基にして、そのランクを更新していくというもので、営業段階における顧客のランク付けを住まい手に置き換えて行おうというものです。

例えば、竣工時には評価が低かった住まい手でも、「家守り・暮らし守り」を経ることで自社への評価が上がるケースもあることでしょう。これは「顧客満足度」を⾧いスパンで捉える大切な取組みだと思います。

特にメンテナンス専任者がいる工務店では、自身の仕事ぶりによって住まい手の「ランクアップ」が実現可能となるため、業務に対するモチベーションも高まりますし、後ろ向きになりがちなメンテナンス業務に対して「前向きな意識」を促進することにもつながると思います。

 

以上が今回の記事です。

ようやく本ルームを締めることができて安堵しています。今回の記事で初めてこのルームを知った方は、ぜひ遡ってご覧ください。

 

最後にこれは告知なのですが、この連載のテーマである「つくるプロセス=生産工程」について、地域工務店の「ブランディング」という観点から切り出したセミナーを開催します。

セミナーのタイトルは「地域工務店のための骨太なブランディング入門講座」としました。

住宅市場はかつてないほどに厳しく、ますます競合の激化が予想されます。このような状況の中で地域工務店が勝ち抜くためには、顧客から「選ばれる」仕組みを築くこと、つまり「自らの手でファンをつくり出す戦略」がとても重要だと思います。すなわち「ブランディング」ということなのですが、このセミナーでは「生産工程」を核とした地域工務店の本質に合った実践的な手順を解説しようと思っています。

無料のセミナーですが、時間も2時間以上とってしっかりとした内容に仕上げるつもりですので、ご興味のある方は下記からお申込みください。

お申込み先:INFORMATION & SEMINAR | ひと・住まい研究所

 

今後「ブランディング」をテーマとしたルームを開設したいなと思っていますので、その際はぜひ覗きにきてください。

 

 

 

 

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